Thank you !

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この広い会場中を、彼女が魅了している。

先ほどまでの荘重なものとは違う、美しくももの悲しい調べを聴きながら、おれはそう確信していた。
音楽に関しては、様々な意図や感情が絡んでくるであろうことが懸念されていたが、どうやら今回はその心配も無いらしい。
各国の重鎮達は素直にアコの音色に感動を覚えている様子で、それが音楽というものの本来の姿でもあるのだろう。
今後も目の前の光景のように、受け入れる風潮が広まっていけば良いのだが。恐らくは、そうもいくまい。
と、物騒な予測に傾きかけていた思考を、おれは打ち切った。
今は目の前の光景に集中しておかねば、何かと勿体ない。

ピアノに向かい合う彼女は、相変わらず戦慄を覚えるほどに美しかった。
鍵盤を滑る指先も、曲に合わせ揺れ動く上半身も。
ふと、首元を彩る銀の鎖が目に入り、さきほど噛み付いた首筋の味を思い出した。
微かに甘い気さえした細い首筋には、隠されてはしまったが、未だおれの欲を示す紅い痕が残されている筈。
だが。

――首筋だけでは、足りないな。

あの程度で、治まりがつく訳など無かったのだ。それどころか、一層増幅されたと言っても過言では無い。
……いずれ首筋以外にも、おれの欲を刻んでやろう。
心中でそのような誓いを立て、おれは、己の唇を舌で湿らせた。



No3 【第8話-Ⅲ 変態魔術師視点】



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