Thank you !

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「……またか」
「……まただな」

ひっそりとした声音で同僚へと耳打ちすると、同僚から鸚鵡返しのような反応が返ってくる。
視界の先には、若き出世頭として城内外で高名な俺達の上司……第一行政室室長、ジークベルトの姿があった。
休憩時間に差し掛かり、手元の仕事が落ち着くなり席を立った彼は、殆ど音も立てずに行政室を後にする。
休憩時間なので、席を外す行為自体には全く問題は無い。無いのだが……

司法棟の連中のみならず王族からも一目置かれている彼は、非常に多忙である。
そのため、休憩時間でも時間を惜しんで、必要以上に席を立つということはこれまでに無かったのだが……どうやらここ最近は、ある特定の場所に通っているらしかった。
しかも、捨て置けない話まで耳にする。

「なあ、室長が親衛隊長やら客員魔術師やらと女を取り合ってるっていう話、知ってるか」
「はっ!? そ、そうなのか!?」
「いや、真相はよく判らんが。何か、騎士棟の一番若い女中がそんな事を言ってたんだよ」
「それ本当だったら……血の雨降るんじゃないのか、そのうち……」

どうやらその話までは知らなかったらしい同僚が、物騒なことを口走る。
だがそれも、あながち外れてはいないんじゃないか、と、俺も思ってしまった。
最近では随分と丸くなったとはいえ、俺達は、室長の本来の気性を知っている。

「まあ……降らないといいな、血の雨」

室長が消えていった扉へと向けて、俺は、心からの言葉を呟いておいた。



No2 【第6話辺りの舞台裏 文官A視点】



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